言葉

永遠の仔〈5〉言葉
天童 荒太


私たちは、世界的な惨事と比べて、自分たちの日常的な悲しみや過ちを、つい、つまらないことと言いがちです。けれど、きまりきった平凡な暮らしをしていても、次から次にふりかかってくる問題は、本当に世界的な惨事とかけ離れているのでしょうか。もしかしたら、深いところでは、同じ根でつながっている場合も少なくないのではないかと、疑います。私自身が、とてもささいなことで、いちいち心をふるわせているために、言い訳めいたそんな考えを抱いたのかもしれません。小さなことに悩み、悔やみ、苛立って、すぐ隣にいる人の、ごく日常的な悲しみやつらさにさえ、充分には心を添わせることができず、日々の仕事に追われるばかりだったというのが、私の現実でしたから。